「一丁佛異 聞」より

                         1975年刊              

 あとがきより

 

 「一丁仏」「あみださま」と呼ばれる古碑が、阿武隈川沿岸の各地に

 転々と残っている。     …中略…

 戦争が終わって数年後のある夜、崖の「あみださま」が折れていた。

 地上 一尺ほどのところで、なそえに裂けた断面を残して、本体は

 崖腹の草にのめりこんでいた。その原因はしるよしもない。 

 その頃私は母に死なれて、村を離れた。

 20数年後の今、その裂断面の豆腐かすの色を呈していたさまが

 眼底に浮かんでくる。年とともに鮮明度を増すこの影像は、

 私のなかで悶絶しきれないでいる。「祈り」が、そこにうごもっている。

 私の視野をすかして未来の闇を見る視線がそこから放たれているようだ。